会社概要 サービス一覧
【2023年度版】シンガポール銀行口座開設完全ガイド ~
シンガポールの銀行口座開設が大変ときいてるが、本当?~

特集

2023. 9. 27​

最近、「シンガポールでは新規法人の銀行口座開設が難しくなっているのか?」「シンガポール3大銀行から取引調査書が会社に届いた。どのように回答したらよいか?」という問い合わせが増えています。この状況に驚かれている方も多いのですが、これは今に始まったことではない、というのが現場で常に新設法人の銀行口座開設をしている私たちの印象です。

銀行口座開設の審査が厳しくなっている原因は?

皆さんも一度はお聞きになられたことのあるパナマ文書(報道は2016年4月)から始まった、外国の金融機関を利用した、国境を超える脱税を予防するための租税条約等で管理する共通報告基準(通称CRS: Common Reporting Standard)に従い、各国が順次「非居住者」に係る金融銀行口座情報を自動的に交換する制度が開始されました。

日本では2017年1月1日から開始、シンガポールでも2018年から情報交換を本格的に開始しています。

ここでのポイントは「非居住者」のという点です。最初に申し上げた銀行口座開設が難しくなっている対象は「非居住者」が株主となっている新設シンガポール法人が中心なのです。現在、シンガポール国内3大銀行(DBS、OCBC、UOB)で、「非居住者」が株主となっている新設シンガポール法人の銀行口座開設が難しくなっているのは事実です。

非居住者は、納税という観点からはシンガポール国外での納税義務があるのですが、シンガポール銀行だけでは納税額の把握が難しいため、銀行の取引開始(銀行口座開設)時にKYC(Know Your Customer)を行い、「そのシンガポール法人に税務上の事業実態はあるのか?」を確認します。この際の質問内容の具体例として、以下をリクエストされるケースがあります。

  • シンガポール国内企業との契約書や請求書
  • 事業を行うオフィスの賃貸契約書
  • スタッフとの雇用契約(及びスタッフの年金支給履歴等)

銀行口座開設を申し込む側としては、「新設したばかりで、まだ銀行口座を開設していないのに、なぜお客様に対して請求書を発行できるのか?」「給与支払いのための法人銀行口座がないのに、なぜ雇用契約ができるのか?」と鶏が先か卵が先かのような質問に当惑される方も多いと思います。しかし、これがシンガポール3大銀行の対応の多くを占めていることも事実です。そのため、大手銀行での「非居住者」が株主を務める新規法人銀行口座開設は、銀行にとってのコンプライアンスコストが増え、経営上好ましくないため、過去に比べ、引き気味のスタンスであることは間違いないと言えます。

また、銀行担当者の質の低下も「厳しく感じる」原因の一つと実感しています。通常、銀行口座開設時にはシンガポールで行う事業の説明をするのですが、その事業内容の理解力が、特にシンガポール3大銀行の担当者において、かなり落ちていると言えるでしょう。弊社で付き合いの長いUOBの支店長でさえも、為替取引の営業はするが銀行口座開設はちょっと、、、という姿勢なので、優秀な人材は為替営業(これはまだ銀行にとってドル箱のようですね)や融資営業に配置されるのでしょう。

「非居住者」が保有&経営するシンガポール法人の銀行口座開設はどうすればよいのか?

詳しい解決方法は後ほど解説しますが、最近では法人設立時にシンガポール居住者を株主に設定し銀行口座開設をし、その後株式譲渡(非居住者や日本の親会社に対して)をする手段が流行っています。

手続きが圧倒的に早く終わるため、有効な手段の一つと言えますが、銀行側も株主変更や役員変更登記情報を常にモニターしているため、銀行側のKYCがその後発生します。運よく銀行から質問がなかった、というラッキーな方もいらっしゃるかもしれませんが、あくまでもこの手段はその後銀行から新規銀行口座開設と同様の質問を受け、そこで十分な回答ができない時は銀行口座が閉鎖されるリスクを持つ、と十分理解してから進めるとよいでしょう。

シンガポールで銀行口座開設可能な銀行は?

現在シンガポール国内で「法人銀行口座」サービスを行っている銀行を網羅的にみていきましょう。

◆シンガポールにおける銀行の定義

現在、シンガポールのMAS (Monetary Authority of Singapore: 日本の金融庁のような機関) にて、金融機関(Financial Institution)として届けられている会社は205社あります。

そのうち、いわゆる通常の(預入れや決済機能を持つ)「銀行」の役割を果たしているものは、主にLocal Bank (6行)、Qualifying Full Bank (10行)、Full Bank (20行)の計36行が該当します。

  1. Local Bank: シンガポールで設立されたシンガポールの銀行です。
  2. Qualifying Full Bank: シンガポールで事業を行う海外銀行です。合計25か所まで拠点を設けることができ、Local Bankと共同してキャッシングサービスを行うなど、制限がかなりあります。
  3. Full Bank: Full Bankは、シンガポールの銀行法に基づき認可された銀行で、預金や小切手の取り扱いを行ったり、その他、MASによって定められている業務を行うことができます。

<参考>MAS: Types of Deposit-Taking Institutions.
https://www.mas.gov.sg/regulation/Banking/Types-of-Deposit-Taking-Institutions

◆シンガポールで法人銀行口座開設ができる銀行は⁉

さて、それではシンガポールで法人の銀行口座開設ができる銀行をご紹介いたします。当社が問合せをした結果となり、実際に提供しているサービス(顧客により対応を変える可能性はあるため)とは異なることがございます。ご了承ください。
(2023年2月現在、弊社調べ)

【シンガポールローカルバンク】

◆DBS銀行

銀行: 22年12月連結決算で過去最高益を記録するほどの勢いのある、東南アジア最大級の銀行です。最先端のデジタル技術を率先して導入している銀行としても有名です。

DBS銀行での法人銀行口座開設は、窓口対応が基本です。Marina Bay Financial センター内にある本店に行き、銀行口座開設を実施します。まずはオンラインで申込み、その後本店訪問という流れですね。過去の経験から言うと、銀行口座開設の対応自体はしっかりしており、流石、シンガポールのTOP銀行!というサービスを提供しています。

〈DBS銀行口座開設時の必要書類一覧〉
https://www.dbs.com.sg/iwov-resources/forms/sgsme/en/day-to-day/accounts/business-account/account-opening-checklist.pdf

但し、TOP銀行であるが故に銀行業界全体の影響を受ける事も特徴の一つでしょう。前述のとおり、「非居住者」保有法人の銀行口座開設に対するコンプライアンスコスト増が経営に大きな影響を及ぼすため、様々な手段でコンプライアンスコスト削減を積極的に行っています。例えば、銀行口座開設後のお客様に「Annual Review」と称する(銀行口座閉鎖を前提とした)取引内容確認を行い強制的に銀行口座を閉鎖したり、または取引内容確認もなく「2週間後に銀行口座閉鎖をします」という通知のみで、銀行口座閉鎖が行われることもあります。よって、現時点では、小規模取引を前提とした「非居住者」法人の銀行口座開設は困難と考えるべきでしょう。

◆OCBC 銀行

OCBC銀行も原則的にはDBS銀行と似ています。但し、コロナ渦での対応としてZoom等のビデオ会議でパスポートを確認し、それを本人確認とする対応を行っており、窓口に訪問しなくとも銀行口座開設は可能です。審査自体はDBS銀行と同様の対応と考えておいた方が良いでしょう。

〈OCBC銀行口座開設時の必要書類一覧〉
https://www.ocbc.com/assets/pdf/forms/account%20opening/docs-required-to-open-business-account.pdf

◆Citibank 銀行/ Standard Chartered 銀行/ HSBC 銀行

俗に外資系銀行と呼ばれるCitibank 銀行、Standard Chartered 銀行、 HSBC銀行は銀行口座開設基準の改定等もあり、法人設立直後の銀行口座開設には不向きです。但し、ローカルバンク(DBS銀行、OCBC銀行、UOB銀行)と比較して、為替取引や円やUSドル送金が多い事業については為替手数料に競争力があるため将来的には検討したい銀行です。

それぞれコーポレートバンクの担当者などが付く体制面では似ていますが、担当者に確認したところ、新規銀行口座開設の条件として2~3年の決算書、自社オフィスを構えローカルスタッフが働いている現場があるかなどが開設の条件になるため、そこで新設法人は困難となります。

◆Maybank 銀行/CIMB銀行

MaybankやCIMB銀行などはローカル銀行業界ではTier2カテゴリーと呼ばれSMEなど中小企業対応を得意としています。6~7年前までは、オンラインバンクで残高確認しかできないなど、IT面で後手にまわっていましたが、現在では送金、為替、残高確認など、機能としてTier1 (DBS銀行、 OCBC銀行、 UOB銀行) に負けないシステムで利便性を高めています。

もともとマレーシア系の銀行のため、「非居住者」法人対応に慣れている点も「Tier2」銀行の特徴といえ、銀行口座開設時の対応としても担当がつくため、事業内容などはしっかり説明をしながら進められます。

◆Aspire Bank

DBS銀行資本のネット銀行です。正確には「銀行」ではなく、決済サービス機関という登録ですが、ビジネスを行う上で必要なサービス(マルチカレンシー銀行口座、送金サービス、各種支払い等)を提供できるため、第一候補の銀行口座が開設できなかった場合に備えて、Aspire Bankも候補に入れておくとよいでしょう。銀行口座開設手順は簡単で、私が法人銀行口座開設を行った際(2022年11月)は10日ほどで完了しました。

余談ですが、法人銀行口座開設はNGだったのですが、銀行口座開設の問い合わせに対して真摯に対応してくださった銀行を紹介しておきたいと思います。

◆GXS BANK [Local Bank]

タクシー配車、フードデリバリーで有名なGrabと通信会社大手のSingtelが共同で立ち上げた新しい銀行です。法人銀行口座開設について問い合わせをしたところ、まだそのサービスは行っていないと回答がありました。今後のサービス拡充を期待したいところです。

◆BNP PARIBAS [Qualifying Full Bank]

まず電話で問い合わせをし、メールで事業内容等を送りました。その後、追加で会社情報が欲しいと依頼があったので、一瞬期待をしましたが、2週間後に「社内で検討した結果、残念ながら~」と銀行口座開設不可の連絡がありました。

◆THE BANK OF EAST ASIA LIMITED [Full Bank]

融資ができる会社であれば銀行口座開設は可能、という回答がありました。融資ができるということは、決算書があり、しっかりとした会社という意味を含んでいるので、そのような法人であれば法人銀行口座開設は可能かもしれません。

◆Bangkok Bank [Full Bank]

メールでの問い合わせに対して電話連絡が1-2日でありました。シンガポール支店で銀行口座を開いてもインターネットバンキングの取引ができないため、銀行口座開設はやめたほうが良いとアドバイスをいただきました。

◆ICICI Bank [Qualifying Full Bank]

こちらも、メールでの問い合わせに対して電話連絡が1-2日でありました。インドの銀行だけに、インドの取引がある会社が主要顧客となるそうで、インド絡みの事業でない場合はLocal Bank(DBS銀行、OCBC銀行、UOB銀行)での銀行口座開設をお勧めする、とアドバイスをいただきました。

【日系メガバンクシンガポール支店】

◆三菱UFJ銀行

日本で取引があることが前提で、取引のある支店から話を進めてもらうという流れになるようです。明確な数字等は確認できませんでしたが、取引量が将来的に増えるということが見込めることが望ましいようです。ご希望の際は、お取引のある支店でご確認をお願いいたします。

◆三井住友銀行

日本でメインバンクとして取引がある場合、1億円のデポジットを入れてもらえればシンガポール支店での銀行口座開設が可能と言われたお客様がいらっしゃいました。いくら日本で取引があっても、海外支店で銀行口座開設となると話は別のようです。

こちらもお客様の状況にもよりますので、ご希望の際は、お取引のある支店でご確認をお願いいたします。

さて、以上がシンガポールで銀行口座開設可能な銀行リストとなります。銀行口座開設が難しそうだと思われた方も多いのではないでしょうか。

「非居住者」が保有&経営するシンガポール法人の銀行口座開設はどうすればよいのか?(推奨例)

2023年2月に実施した当社調査をもとに判断すると、やはり銀行取引の重要性と銀行側もビジネスとして「うま味」のある取引先を優先に対応することが理解できます。その上での、新設シンガポール法人の銀行取引をステップにわけていくと以下の流れが理想的と考えられます。何れにしても急がば回れではないですが、「王道」をいくのが基本です。以下はあくまで株主やシンガポールで実務執行する役員が「非居住者」であることが前提条件となります。

STEP1: シンガポール法人 新設時

新設企業としては、銀行取引等がない状態からのスタートになるため、ネット系銀行や「Tier2」銀行(MaybankやCIMBなど)の銀行口座開設をおススメします。「Tier2」銀行の世界的な位置づけを日本の銀行比較で解説しましょう。

金融機関としての銀行の安全性を図る基準の一つに「優良資産の残高」で測る手段があり、「The Banker」誌に発表された2022年度の世界ランキング(1,000位)を見ますと、

【日本の銀行】MUFG (12位)、SMBC(21位)、Mizuho(35位)にランクインしており、野村(証券グループ)(80位)、りそな銀行(100位)、信金中金(149位)と続きます。

【シンガポールの銀行】DBS銀行(59位)、UOB銀行(74位)、OCBC銀行(76位)

【Tier2:マレーシア系の銀行】Maybank(115位)、CIMB銀行(159位)、RHB銀行(263位)と続きます。

そのため、世界的に見た「Tier2」銀行は日本でいうりそな銀行~優良第1地方銀行の間に属すると言えるでしょう。まずは、スモールビジネスへの理解度の高い銀行からスタートし、そこで売上、支払いの取引実績を作りながら、次のステップへ進むことが王道と言えるでしょう。事業上はシンガポール金融庁のライセンスを持ち、国内送金、海外送金、オンラインバンキングサービス等は兼ね備えているため事業的な支障はないでしょう。

STEP2: シンガポール法人 2期目の決算を終えてから

STEP1で「Tier2」銀行口座開設後はシンガポール法人で、入出金・為替交換等の実績を作り、最低2年間の取引を終えた後、状況に応じてシンガポールの「Tier1」銀行の銀行口座を申請しましょう。既に決算書もあり、法人税の申告及び納税などの実績もできている状況のため「非居住者」シンガポール法人とはいえ実態のある事業の銀行口座申込みを断るのはなかなか至難です。

また、海外送金の多いシンガポール法人については、CitibankやStandard Chartered Bank のような外資系銀行も視野にいれるとよいでしょう。送金手数料や為替レートの優位性はシンガポールの「Tier1」銀行より優れています。これらの外資系銀行は、シンガポール国内に自社事務所を持ち従業員の雇用なども行っていれば、申込みをすることは可能です。

また、冒頭に申し上げた銀行にとり「うま味」となるサービスとして「為替取引」と「法人向けローン」があります。これは世界的に同じだと思います。黒字決算の場合は、法人向けローンの取引なども併せて行うと取引履歴もグッとプラスになり銀行側の見方も変わってくるでしょう。「今期のノルマはS$40Millionのローンで四苦八苦してます」と「Tier2」銀行の法人銀行口座開設の担当者がこぼしていました。

【番外編】銀行口座開設時によくある質問

Q:銀行提出用に事業計画は必要ですか?
A:最近はよく求められるため、必要です。

シンガポール新設法人の事業計画書は「必須書類」ではないですが、最近よく求められます。

そのため、銀行口座開設を準備する段階で用意しておく書類として

  1. 会社概要(+シンガポールで展開する事業内容)
  2. 事業計画(立ち上がり2年間)

は英語で準備をしておくとよいでしょう。これらは銀行提出用だけでなく、今後シンガポール法人でかかってくるコスト面を把握し、資本金を決定する材料としても有効です。当社でクライアント法人のために上記2点を作成することはよくありますが、作成している時のポイントをそれぞれ解説していきます。銀行員は以下を参考にして行内稟議書をあげていくため、より多くの「安心材料」を書いておくことが重要です。

  1. 会社概要(+シンガポールで展開する事業内容)
    ・日本での売上規模、取引銀行(期間含め)、主力の事業内容及び取引先(シンガポールにある海外取引先があると尚ベター)、従業員数は必須です。
    ・日本の事業はライセンス等が必要なサービスであれば、ライセンス内容(認定機関)と保持期間
    ・シンガポールでの売上対象企業(候補先であってもシンガポール企業の名称が入っていると更によいです)
    ・シンガポールで同様事業を展開する類似企業(これは銀行員が事業内容を理解する上で重要です)
  2. 事業計画書
    ・売上構造の説明ができるように。物販やリテール業であれば売上原価想定、法人向けサービスであれば1社あたりの平均単価想定、YouTube事業であれば配信対象国や広告収入(過去の推移含め)など、毎月の売上入金回数が何回+金額を最終的に提示できるようにしておくこと。
    ・また、売上通貨については想定で構わないため、日本円売上、USドル売上、Sドル売上など分けておくと、銀行側も為替取引ニーズを把握できるためベストでしょう。
    ・販管費はシンガポール従業員の採用計画(何人くらい雇っていくのか)から算出される人件費、家賃(自社オフィスを構える予定はあるのか)、外注先候補社名や社数に関しては、いくらくらいをどの通貨で送るのかを表現できるとよいでしょう。

決算書ほどの細かさは必要ありませんが、上記のポイントを表現した「簡易版」事業計画を作成しておくことはおススメします。当社で使用している事業計画を下記に載せておくので、どの程度のものを準備する必要があるか、確認する参考になればと思います。