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【移転価格税制編】
シンガポール進出を計画する時の税金の考え方(租税回避を含む)
監修: 関口 泰央(公認会計士・税理士)

特集

2023. 9. 27​

日本で事業を行っており、税理士の知り合いからのアドバイスで、シンガポールに法人を設立してシンガポール移住し、経営指導料という名目で日本の法人に請求をしてシンガポールに家族と住みたいのですが、本当にできますか?

このような問合せは正直シンガポールにいると少なくないです。実際に実行する場合は、適正な取引価格に注意するべきです。上記のようなケースではどのような準備が必要で、なぜほとんどのケースで適正にできていないかを詳しく解説していきましょう。また、見出しにある「移転価格税制」や「租税回避」とどう関係してくるかも、分かりやすく説明していきます。

なぜほとんどのケースで適正ではないか?

図①

1.「経営指導料」はいくらが妥当なのか?

まず図①のままでは、Aさんが両社の代表を務めるため、「経営指導料」の金額決定はいかようにでもできる環境です。その環境下でロジカルに「経営指導料」を決定する方法は2つあります。一つ目は過去に日本法人で受け取っていた「役員報酬額」を上限にすることです。「役員報酬額」はその企業の業種、収益性、業務内容等に左右されるため、過去に受け取った役員報酬額(日本滞在時はその額で個人所得税を納税している)が一つの基準になります。二つ目はTransfer Pricing Valuation(移転価格評価)を実施することです。世界の取引データを集計し、業種や提供サービスに応じた比較評価をする第3者機関の評価書です。過去に当社でもクライアント企業向けに評価書を取得したケースはありますが、その時の評価方法はあくまで「コストベース+マージン%」を定義するものであったため、金額の妥当性という点では心もとない評価方法でした。

2.どう見ても「役員報酬」の延長線上にしか見えない「経営指導料」

まずは、この図①をよく見てみましょう。金額感は別としまして、代表がシンガポールにいるだけで、日本法人の業務や経営自体は一切変わらずのままで、代表Aさんはなぜシンガポールにいるのか不明な状態です。今まで役員報酬で受け取っていた個人所得が日本ではなく、シンガポールで納税になるだけの変更であり、所得の源泉は日本国内のままです。そのため、この経営指導料は日本国内で税金を徴収されるべきです。過去の事例として、この「経営指導料」については、シンガポール法人への支払いではなく、シンガポール在住の代表者の役員報酬と見做されて、日本国内で源泉徴収された例もございます。

3. 誰か別の人間に株主や役員になってもらうのは?

これも原則NOです。例えば、よくある提案として、シンガポール法人の株主を別の方になってもらい(ノミニー株主の名義貸し)、全くの第三者のアドバイザリー取引とするのはどうですか?という安易なものがあります。しかし、シンガポールでは法人設立時に、会社秘書役(及び銀行)に対しての情報開示(KYCの一環として)で「Beneficiary Owner」の記載が義務付けられており、(このBeneficiary Ownerは日本語で「実質的な支配者」と訳します。)そのため、日本の税務上も同様に、実質的な支配者が同じ法人グループということになると当初の図①と全く同じ状況になります。結果、移転価格税制や租税回避規定の対象になります。

また、タックスヘブン税制にも図①は該当するため、タックスヘブン税制については以下をご参照ください。

【タックスヘイブン税制編】シンガポール進出を計画する時の税金の考え方

では、どのようにすればシンガポール法人を設立し、Aさんはシンガポールで適切に住むことができるのでしょうか?

原則論として、「日本法人で計上する「日本国内源泉」の売上&利益はあてにしないこと。」があげられます。

その上で冒頭の質問にあるような「小手先」の考えに惑わされず、事業マインドを持ち改めて考え方を整理することが必要です。今後のプランニングの参考までに以下3つの考え方を解説します。

Solution1: 日本取引先やビジネスパートナーとの海外事業専門の共同出資法人の設立

  • 若干Solutionタイトルとしては長くなりましたが、日本法人の既存取引先と海外売上(特にシンガポール企業や東南アジア企業)を狙った新設JV法人の設立をして、既存の日本法人事業とは一線を引き、海外クライアントの獲得をしていくことです。
  • 業種によりクライアント企業は海外企業直接となることもあれば、日本企業の海外進出等のプラットフォーム事業なども考えられますが、重要なことは既存の日本法人と「売上」という点で一線を引くということです。
  • 代表自身がシンガポール在住であったとしても、しっかりどの事業への関与であるか(日本法人の経営 vs. 海外事業の開拓)を分別して管理ができます。

Solution2: 海外事業の展開準備(支店設立)

  • 経営指導料などの役務提供詳細が説明しづらい取引をするより、本格的な海外事業売上を考える場合(上記のSolution1にも関連しますが)、代表Aさん自らがシンガポールに乗り込むケースで最初1~2年は事業維持コスト増のため赤字決算になる可能性は十分に考えられます。そのような見通しがある場合、まずは「現地法人」ではなく「シンガポール支店」の設立を検討するべきでしょう。
  • 支店の場合、シンガポール国内での納税義務はなく、全てが本店である日本側の勘定に統合された上で日本国内納税となります。そのため、図①のように現地法人設立した場合、キャッシュフローを日本法人(この場合は、本店)で維持+費用計上がシンプルになり、経営指導料より純粋な「非居住者」に対する役員報酬を支払うことで、日本法人から適正な源泉税を納税することができます。

Solution3: 日本事業のバトンタッチ(代表引退)

  • これはかなりのケースでは非現実的なSolutionですが、あえてここであげる理由は、冒頭であげたプランを考える際、ここまでの事を検討しなければいけないためです。シンプルにまとめたものが以下図②になります。日本法人を退職するわけですから、退職金等をしっかり受領してからシンガポールに移住する計画をたてるとよいでしょう。
図②

上記のようなケースは「移転価格税制」のみを考えるべき問題ではなく、その他税法上の課題をしっかり確認した上でシンガポール進出や移住方法を決定するべきでしょう。それでは「移転価格税制」の分野でシンガポール進出時に注意する点を中心に事業目線で検証していきましょう。

移転価格税制とは?どのようなケースで注意するべきか?

移転価格税制とは、シンプルに言うとグループ間の国際取引などの取引価格を操作できる環境下で、低税率国などに利益を流出させることを防ぎ適正な取引価格にするための税制です。

一般的な商流として、日本本社の製造業がシンガポールに販売拠点(シンガポール法人)を構え、日本→シンガポール法人→シンガポール国内販売をした場合、グループ内で「日本→シンガポール」で卸売販売の図式ができあがります。

日本本社では日本国内で第三者に卸売をしている場合、その卸売価格は販売価格の50%の仕切値としています。このような状況で、日本と比較して低税率国であるシンガポール法人に対する仕切り値を販売価格30%に設定し、日本本社売上を減少させて、シンガポール法人の利益を20%増加させることを防ぐための税制です。

図③

税率の異なる国をまたぐ取引はグループ内であっても「あたかも第三者に提供する価格(Arms at length)」を設定するように注意するのがポイントです。

但し、国により商習慣(リテール業界の寡占化)や販売にかかるコストが異なることも当然であるため、その国の利益相場はグループ内の価格決定をする上で事前に調べておく必要があります。または、移転価格(Transfer Pricing)の評価(価格としていくらが妥当か、またはマージン設定はいくらが妥当かなど)を提供する専門企業もあるため、取引額が多くなる場合は専門企業に移転価格評価をしておくことは将来的な税務リスクを回避する目的として重要になります。